美術運動 No.151
2024年3月発行
定価:700円
特集│戦争と近代日本美術史への問い
■日本美術会と美術家の戦争責任問題(1)
■女性画家と戦争 相次ぐ新資料発見と研究状況
■北脇昇と草創期の日本美術会
「再び9 月1 日を迎えた。遠く東の空を眺めていた父母や妻子がこの悲惨な報道にどれほど嘆き悲しんだことか。血に染まった造物主( 造化翁) の悪戯によって、在日同胞が何千人も罪もなく死んでしまった。我々はこの血のように赤い9 月1日を迎えながら、昨年のこの時のことを静かに思うと、暗涙が溢れ、胸がつぶれ何を言えばいいのかわからない」(「今日は9 月1日!」『東亜日報』1924 年9 月1 日、二面)
現代社会の弊害は「効率」と「経済価値」が強く尊ばれ、人権および生存権、社会的紐帯が荒廃している点にある。その原因とは資本主義だろうか?19世紀にイギリスの芸術、思想、宗教を揺り動かした「時代の波」をいま振り返ることは大きな収穫があると思う。これは先年のイギリスへの取材旅行をもとに雑記としてまとめたものだ。
「アートで世界を救えるか」
パリのシャルリー・エブド社襲撃事件、シリア空爆の続く中、本誌に金田が『アートで世界を救えるか キッズゲルニカの20年』を寄稿したのは2016 年である。そうした問いを抱きながらキッズゲルニカ (www.kids-guernica.org) の活動を継続してきたが、ロシアのウクライナ侵攻、ハマスの人質事件、イスラエルのガザ地区攻撃と最近の世界情勢は混迷を深めている。
米国でのキッズゲルニカに関わったことのあるパレスチナ出身のフロリダの小学校の美術教師が故郷のガザに帰郷したとき、イスラエル軍の空爆が始まり、出国できなくなってしまった。連絡の滞る中、彼女の安否が気遣われたが、エジプトとの国境が開いたとき間一髪出国することができた。同じくパレスチナ出身の夫と子どもたちと共に生活の拠点である米国に無事帰国することはできたが、ガザの親戚の何人かは空爆の犠牲となり、彼女の状況はきわめて複雑である。
スペイン市民戦争の中、1937 年のドイツ軍のバスク地方のゲルニカ空爆に対して描かれたのがピカソの『ゲルニカ』の作品であるが、「アートで世界を救えるか」という問いは重くのしかかる。
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