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日本美術会理論部合宿拡大研究会in 富士見高原の報告

日本美術会理論部・部長 上野一郎

合宿に集まった方の記念スナップ
合宿に集まった方の記念スナップ

Ⅰ はじめに 

日本美術会の研究課題は厚く累積しています。戦後美術運動の中で様々な課題が提起されてきました。しかし尚それらの課題は未解決のままに今日に至っています。特に先の戦争と専制を経験してきた美術家が「戦争をどう見て、どう表現したか」即ち、あらゆる美術家の戦争画の問題、それらの経緯の中で、美術家がどう自立し自覚してきたかの問題でもあります。また表現の問題に関しては社会主義リアリズム等の反省や新しい価値の創造としての「リアリズムの課題や表現の多様性の問題」等もあり、加えて現代の新しい美術状況に対応する問題まで、まさに多彩で重層的です。 日本美術会の理論部に対する期待は益々高まっていますが、毎年のアンデパンダン展開催中に実施している1日の部会では到底課題に応えられません。そこでそれらの緊急で重い課題に応えるため3年前から本合宿研究会がスタートしました。

Ⅱ 今回の第3回理論部合宿研究会in富士見高原について

 理論部は研究会を部員以外にも呼びかけて、「拡大」とした合宿を2015年6月に京都・修学院で、2016年9月には金沢・美術工芸大学で行った。そのときの成果は多く、特に理論部会会員の相互理解が進み、通年のメール等のやり取りも含め総合的な活力と質的な向上が図られました。その成果が、数十年ぶりに刊行された理論部集となって表現されています。 これらの活動の活性化で、いろいろと勉強になり充実したものがあったので、2017年にも行いたいとの願望があった。そこで理論部員以外の協力も得て、日本美術会員の西村順子(永井研参加者)さんの長野県富士見高原にある別荘で、初秋に行うことになった。

 研究会は10月11日、12日、13日の3日間行われた。しかし都会をかなり離れた場所であるだけに交通の不便さや高齢者の体調不安もあり、また衆議院選挙が急に公示されたので、極めて困難な状況であったが係責任者等の献身的な努力と部外の会員の多大な協力と援助により、予定通りに実施することができました。

 理論部からの7名(上野、荒木、籔内、北野、御笹、古川、山下)に加え、部以外の会員3名(相沢、西村、百瀬)が参集され、特別に現地小淵沢の「白の家」と野外彫刻アトリエ等の冨田、山本両会員がお世話してくださいました。 多くの方々の協力に心より感謝しています。

Ⅲ 1日目の報告

 初日の議題は、2017年1月に理論部が編集して日本美術会から発行の『論文集』についての相互批評であった。

 それに先立って、2018年のアンデパンダン展の際のアートフォーラムの課題やテーマや内容などについて議論がされた。その方針に色々な意見が出た。副部長・薮内がアートフォーラム担当責任者でもあるので、そこに一定の集約がされ、今後の交渉に委ねられた。特に、アンデパンダン展のクロニクルとしての60年代の創作展示が70回記念展で実現した意義は大きく、それを引き継ぐ企画が大切である。また来年度はシンポジュウム開催の年度であり、アンデパンダン展にふさわしい課題とシンポジュウムでの日本美術会に適したものとのすみわけと仕分けが大切であるとの意見があった。

 続いて『論文集』の話題に移った。これは、1981年に理論部が編集し会が刊行した『日本美術会理論部論集』に続く第2弾で、長年できなかったことの成果である。

 その内容は各自が自由にテーマを決めて執筆した諸作品集で、いわばアンデパンダン的な意識での集合である。各論文の全体的な感想では、まずその視点や切り口が指摘された。次いで執筆者から論文の意図の解説が述べられ、追加の説明資料が提出された。その一々をここに記す紙面はないが、こうした検討はいわば合評会に当たるものであろう。しかしこの論文集についての意見などが会の他のメンバーからほとんど寄せられないのは、残念であるとの感想が出ていた。その一方、執筆者には10部ずつ配布されていたが、もう手持ちがなくなり残りがあるならもっと部数が欲しいとの要望もあった。こうした初日4時間半ほどの熱を帯びた議論は、濃密なものとなった。まさに合宿研究ならではの貴重な成果であった。

Ⅳ 2日目の報告

 2日目の午前は、日本美術会の規約と趣旨の検討があり、会の発足当時からの規約や趣旨の歴史的資料が出された。またアンデパンダン展の出品者数、出品数、入場者数の変遷などのグラフも参照し、丁寧に討議することができた。 規約については特に次のような指摘が出された。「入会条件が厳しすぎるのではないか?」また「二次的会員として、会友などを考えるべきではないか?」「役員に副委員長とか次長の規定がないが?」等々活発な意見交換ができました。 ただ会の運営上の課題と現在の規約との間に、もっと整合性を持たせる必要が指摘されました点は必要なことではないでしょうか。規約改定については、字句の誤りや部分的な修正も含め、意見検討に充分に対応し、改定には諸手続きがかかり必要に応じ早めに検討委員会を設けるのが良い。そして改定の条項の成文化した案を、来年3月に予定されている理論部会で検討する運びとなった。 午後には、理論部の今後の課題について議論をしました。これについて以前から出されている荒木提案の課題項目があまりに全面的すぎ、理論部の体制(人数、高齢、居住地など)から考えて全部を部として対応するのは困難であるとの意見もあった。新たな提案として最近の状況を加味した「日本美術会80周年にむかって」の提案メモも出され、そこにある現代社会、現代アートをめぐる状況、日本美術会の展望をどう切りひらくかの諸点について検討すべき課題を大いに話し合った。 その後、部長・上野が本年夏に訪れたヨーロッパで、フランス、イタリア、ドイツ等のヴェネチア・ビエンナーレ、ミュンスターの彫刻プロジェクト、カッセルのドクメンタ展を見に行ったので、スライドを使ってそれらの簡単な報告を聞いた。 例えば、ヴェネチア・ビエンナーレ展の近年や本年度の動向を検討し、それが一般に言われているような新しい美術をリードする催しではもうなくなったこと、そこではアートよりもイメージ、均一よりも多様性を展開していること、あるいは精神的な障害者の作品を展示して“誰がアーティストであるか?”、“何がアートか?”を問うとか、社会性・政治性が強い、非ナショナリズムを打ち出していること、またヴェネチア・ビエンナーレ自体を否定する作品が会場に展示されている自由とかが指摘された。 最後には、2017年のアンデパンダン展出品作品をスライドで上映しながら、一定の批評とその相互交流を行った。そこでは時間の関係から、特に本合宿参加者の作品を取り上げ、作者の説明と批評が時間切れまで活発に行われた。

Ⅴ 3日目の報告とまとめ

 翌日は、近くにある日本美術会代表の冨田憲二さんや会員の山本明良の石彫アトリエと展示を兼ねた住居施設「白の家」を訪問して、歓談し交流できた。なお時間が許される参加者は、ブールデルに師事した清水多嘉示の作品や優れた縄文土偶などがある八ヶ岳美術館を見学し信州ならではの貴重な機会を生かしていた。

 この合宿は、気分を転じた土地で気楽に朝から晩まで濃密に意見交換ができるものであった。それらの中から幾つかの方向を見出し、見聞の拡大でそれぞれ成果を上げることができた。しかし部員の高齢化とその参集がなかなか難しい実情とか、どうしても交通費や宿泊費が個人負担としてかかることが次回の問題としてあげられる。

 特にはじめの指摘通り、理論部に課せられた課題は多種多様にあり、その責任は重く深い、私たち理論部は益々研究の深化やそれらの集団的な検討が必要になっています。そのような要請が会の内外からある中で、今回の研究会開催に当り、担当責任者に多大の個人的な出資や負担がかかったことは今後の改善を必要としています。もっと前向きな会からの支援や援助でより豊かなものにすることにより、各部会の活性化や会員の自覚と責任の向上が図られ進むのではないでしょうか。皆様のご理解とご支援を要望し引き続き地道な研究活動の発展を願っています。

 以上簡単ですが報告いたします。