コロナ・パンデミック◆Pandemic and Art

コロナ・パンデミック パンデミックとアート

「死の勝利」とペスト

 「感染爆発」という恐ろしい事態に遭遇している。しかし地域的な疫病は古くから在った。あの大航海時代には、島民全体が今でいうインフルエンザで全滅した記録もあるという、黒死病(ペスト)のパンデミックが有名で、最近の研究では、ヨーロッパの半分の人口が亡くなったと言われている。それが教会の荘園の農奴が劇的に少なくなり、教会の権威が失われ、資本主義がルネッサンスの人間復興の背景を作ったと言われている。このパンデミックを描く文学・美術・映画など数が多い。ブリューゲルの「死の勝利」などはいかに黒死病が恐ろしかったのかを余すところなく表現している。

ピーター・ブリューゲル「死の勝利」1562 年頃 117.4×162 油彩・パネル(プラド)
ピーター・ブリューゲル「死の勝利」1562 年頃 117.4×162 油彩・パネル(プラド)

コレラと「秘密の花園」、 スペイン風邪とシーレ

 コレラのパンデミックもインドの風土病がイギリスの植民地政策の結果世界に広がったという。「秘密の花園」という文学作品があるが、近年映画化されたものを見た。インドから両親をコレラで亡くした子どもがイギリスの港へ帰ってくるところから始まる。主人公の少女は親類の迎えも無く、一人港の入国管理の事務所にたたずむところから始まって、スコットランドの荒野の古い宮殿にたどり着く。そこから、秘密の花園をひそかに復活させる話だった。近年にもスペイン風邪というパンデミックが第一次世界大戦の戦死者より多くの死者を出したと記録されている。関根正二や村山槐多など結核との合併症だろうが21・23歳で亡くなり、エゴンシーレも看護婦の夫人・赤ちゃん共にスペイン風邪で無くなっている。作家の宮本百合子もニューヨークでこれにかかって危なかったと言われている。著名な人の犠牲者の名前を挙げるときりがない。

震災・感染爆発・原発事故・政治権力

 そして今回の新型コロナの世界的な流行である。何波にもわたって繰り返し流行し、やがて治まるのだが、世界的には何百万人の犠牲が出ることになる。2011年の東日本大震災を経験した私たちは、同時に原発事故の恐ろしさも味わい、それは未だに収束の兆しさえ見いだせないのが現状だろう。戦前の関東大震災が、その後に軍国主義を招き、アジアへの侵略に向かい、第二次大戦の惨劇で収束を迎えたような歴史を振り返ると、3・11大震災以後の日本が形は違えても、同じような右傾化と国家主義的な『歴史修正主義』の道を進み、戦前と同じようなパターンの現象を生み出していることに注意喚起を促したい。そして新自由主義経済の弱肉強食のゆとりや寛容無き社会が、この100年単位で起こっているパンデミックにいかに脆弱であるのか?そのことが明らかになりつつある。そして、軍備拡張の兵器爆買いの国家主議政権の8年が、いかに現実の自然災害やパンデミックのようなウイルスの突発的変種と流行爆発、新自由主義的な競争資本主義、カルト的な権力拡大の政治が、まったく現実には脆弱であることが、明らかになって来た。

黒澤明監督「生きる」1952 年作
黒澤明監督「生きる」1952 年作 

 「生きる」とゴンドラの唄

 黒澤明の名作「生きる」の中で主人公が歌う「ゴンドラの唄」は浅草オペラで流行った歌だが、その詩はベニスのルネサンスに作られたという。「命短し、恋せよ乙女 ・・」の詩はあのペストで人口が半分になるほどペストで亡くなった人の死を体験した集団の記憶が作らせたものなのだろう。 だから、人の生きるのに大切で、真に人間の生を全うする芸術は、まさに人類の普遍的なテーマの中にあるような気がします。そういう人類的な経験がベースとなった、ヒューマニズムの伝統を次世代へバトンタッチされねばならないもの、ではないかと思うのです。


編集:木村勝明

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コメント: 2
  • #1

    武田健一 (月曜日, 26 4月 2021 17:48)

    素晴らしい! 継続して観ていきたい。

  • #2

    志らべ 穴澤 (木曜日, 06 5月 2021 14:26)

    これは、いいですね!いつでも、どこでも、持ち歩いて、自宅でゆっくり!楽しめます