木村勝明
「プラド美術館-驚異のコレクション-」
スペイン、マドリードにあるプラド美術館開館200周年の映画。俳優ジェレミー・アイアンズ(ナビゲーター)、監督・脚本ヴァレリア・パリシ。絵画がたくさん写されるが、なんと言っても歴史を潜り抜けた生き物のような語り口で美術館を語るという業物の美術映画。
凄い迫力の映像。フラメンコの力強いリズムの様に展開していく。ベラスケスやゴヤやヨーロッパの至宝の古典絵画が集まっている有名な美術館なので、勿論それらが写されるわけだから迫力があるのだが、いろいろなその道のプロのコメンテーターも興味深い。スペイン人民政府が成立した時には、パブロ・ピカソの館長に就任したらしい。そして地方都市への巡回展も盛んに行われたということであった。勿論模写によるその実施だったと言う。スペイン市民戦争の時の美術館の疎開の実施など、興味深くその記録写真を見た。この美術館の凄さがあらゆる場面から感じられた。(木村勝明)
「ある画家の数奇な運命」
ドイツの現代史を丸ごと主人公であるクルトを通して描くとき、そのモデルというゲルハルト・リヒター(有名な画家)はとても良い素材となった。と言っても、その内容はフィクションだが、実際に東西ドイツの価値を体験した実際存在した画家をその成長物語の中心に置くことが、確かにわかりやすく納得できた。はじめのおばさんと一緒に行った、ナチの退廃美術展(各地で巡回展があった)しかし実際はリヒターはまだ赤ん坊の頃らしいから、勿論フィクションなのだが、この最初の導入部からして名作の匂いがした。そしてドレスデンの空襲も秀逸であった。ナチの優生思想による障害者の安楽死の問題。主人公クルトの才気あふれるおばさんはこの犠牲になるのだが、この問題にすべてが絡んでくる仕掛けになっている。東ドイツの美術学校で社会主義レアリズムを学び、大きな壁画を描くなど認められる。同時に彼女の父は医者でナチスの幹部だが、それを隠すために西ドイツに亡命。実はもっと深刻な問題がベースにあって、クルトも西ドイツにその亡命、ヨーゼフ・ボイスが出て来ますが、なるほどな~!って納得する描き方。ドイツの東西の美術とその後の壁崩壊後のドイツの美術と、ナチの過去の犯罪を、そのクルト(リヒターがモデル)の絵画に寄って焙り出すというような展開が、とても丸ごと歴史を掴むような仕掛けになっており、このあたりが日本の歴史修正主義の復活を許す土壌とだいぶちがうな~!って反省しきりの映画だった。フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督[脚本・制作] (木村
勝明)
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