昨年11月、ムンバイ(インド)での石彫プロジェクトが半分ほど経過した或る日、1日休暇を取って船に揺られ、3度目になるエレファンタ島へ足を延ばした。船着場から長い石段を上り切って、メインの石窟寺院のさらに奥まった何番目かに大きくはないが崩れかっかた石窟がひっそりと佇んでいる。ほとんど光の差し込まないストイックな洞窟に出会うと、闇だとか、死だとか、孤高だとかいろんなことが思い起こされ、なぜか胸が熱くなる。意識して、反省的に石を削り落し、閉鎖的な空間を彫り続けて来たものだから。
帰国して数日後に始まった個展に黒御影石、白大理石、鉛といった禁欲的で少し重苦しい素材が立ち並ぶ。異質な素材である鉄線を天井まで4mの高い壁面に絡ませる。未知への触れ合いと隠れた空間から開かれた空間への移行を試みる。
海と陸地が繋がる海岸線、対立と受容のせめぎ合う山陰の静かな入江で育った僕には、奥行きの深さと海の向うの無限の広がりが矛盾を孕みながら連動し、いつも頭のどこかで交差して、流動的であいまいな水の境界線のように、未完のまま、開示しているような気がする。
冨田 憲二
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