多彩なカンボジアの織物
カンボジア織物の美しさは世界に知られています。それは、人から人の手へ、見よう見まねで代々伝えられてきた貴重な文化です。代表的な織り布は、大きく3種類あります。格子柄のコットン「クロマー」は、手拭、風呂敷、日除けなどに活用され、人々の生活に欠かせません。次に、「サンポットホール」という絹絣(かすり)は、3枚綜絖(そうこう)の綾織で、模様を括(くく)って染め上げた緯(よこ)糸を織り込みます。これは、お寺に行く時や結婚式などの巻スカートに使われています。最後に、お寺の天井、仏像の上に飾る天蓋、「ピダン」。世界でも稀なこの絹絵絣には、ナーガ(龍)、象、鳥、天女など様々な動物が描かれ、人々の宇宙観が表現されています。
染料は、ラック(カイガラムシが分泌する樹脂)で作る赤やピンク、プロフーという樹皮で作る黄色やペールグリーンが有名で、その他に、藍、ココナツの殻や黒檀の実、アーモンドの葉なども使われます。
女性の経済的自立と伝統文化の復興
認定NPO法人「幼い難民を考える会」(CYR)は、カンボジアの女性たちの経済的自立と、戦争で失われかけた伝統文化の復興をめざして、織物の技術指導を行っています。女性たちは、家事や農業をしながら生地を販売することで、家族の生計を支えます。
1980年、内戦により難民となったカンボジアの子どもたちが、少しでも人間らしい環境と必要な配慮のもとで暮らせるようにとの願いから、CYRの活動は始まりました。難民キャンプの中で保育園を開き、その隣では、保護者たちが将来自立していけるよう織物などの技術指導を行いました。
織物は、カンボジアの伝統文化にも関わらず、20年続いた内戦で技術を持った女性が大勢亡くなっていました。失われかけた文化をもう一度復興し、貴重な技術を後世に残したい。織物をすることで女性たちが自信を取り戻し、貧困から立ち上がるきっかけを作りたいと考えました。難民となった人たちは皆、自分で将来を決めることができない大きな不安を抱えます。女性が祖国の文化に触れ、手に技術を身につけて再び生きる力を見出せるようにすることは大切でした。物を作り出す創造の喜びは、人間の尊厳に繋がるからです。
織物研修センターでの技術指導
1993年に難民キャンプは閉鎖されましたが、カンボジアの社会経済状況が安定することが、難民を出さない社会作りにつながると考え、CYRは1991年からカンボジア国内で活動を始めました。現在は、首都プノンペンから南へ80kmのタケオ州で、織物研修センターを開いています。10台の織機が置かれ、村の女性たちが1年間泊り込んで絣織や草木染めを学びますが、短期研修も行っています。今年は上級者を受け入れ、シルクとコットンの絣や新しい色使いの研修など4つのコースを短期で行っています。教えるのはカンボジア人のミットさん。奥さんから織物を習い、独学で高い技術を習得して絣織の復元に挑戦している男性です。
センターで学ぶ女性の多くは10代後半から20代ですが、30代の世帯主の女性、離婚した女性、貧しい家庭の女性なども参加しています。自分で織物を売って自立していかれるように、販売方法や原価計算も学びます。これまでにたくさんの女性たちが研修を終え、今も自宅で織物を続けています。収入は、病気がちな家族の薬代や、毎日のお米代として使われます。月に得られるのは20~80ドル。カンボジアの公務員の給与が70ドル位ですので、家計にとっては大きな支えです。
家族を支える女性たち
研修を終えた女性たちにインタビューをしました。
まずはシン・ニエンさん(41)。「田んぼの仕事をしながら織っています、収入は、食べ物や農業の費用に使えるのでありがたいです。」ニエンさんは、お母さんと姪の3人暮らしです。カンボジアでは、内戦の影響で女性が世帯主の母子家庭が少なくありません。織物をしながら家族を支えています。
ミン・サランさん(27)は、7年前に研修センターを卒業して、最近は、孔雀の模様の絵絣を織っています。2年前に結婚して、昨年子どもが生まれましたが、「家で、子どもを見ながら織物はできるので、これからも続けていきたい。」と話しています。
また、トップ・キムレンさん(25)は、2008年にバンコクで開催されたアセアンアートハンディクラフト展示会に龍模様の絹絣地出品し、テキスタイルの部門で入賞しました。
東京でのカンボジア織物販売
こうした美しい絹織物は、カンボジアだけではなく、日本でも販売して収益を研修に役立てています。CYRの事務所は東京の文京区にあり、直営店:カンボジア手織り布ショップ『ラタナ』を併設しています。小さなお店ですが、月曜から金曜の10:00~17:00に開いています。「ピダン」も常時ご覧いただき、ご購入いただけます。日本の住宅事情に合わせた縦長の「ピダン」も制作準備中ですのでご期待ください。他に衣類、スカーフ、バッグ、インテリア雑貨など、カンボジアの女性たちが心をこめて作った100種類以上の織物製品を取り揃えています。価格は、絣生地や衣類が1万円から、小物は数百円~2千円程度です。製品には、手づくりならではのぬくもりが伝わるように、製作者の女性を紹介するタグを1点1点につけています。女性の自立支援という意味を兼ねて身につけていただけたら嬉しいです。なお、DVD「カンボジアの伝統織物ができるまで」(税込価格2,500円)を販売しております。カンボジア現地の美しく色鮮やかな織物製作風景が、詳しい製作過程の解説とともにご覧いただけます。どなたにもご覧いただけるように、DVDの広告映像もご用意しておりますので、詳細はご連絡ください。
【お問合せ先】
認定NPO法人 幼い難民を考える会(CYR)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-10-4 池田ビル3F
電話:03-3943-6971
FAX:03-3943-6973
Email: info@cyr.or.jp
URL:http://www.cyr.or.jp/
日本美術会が運営するコンテンツ