2010年秋、Canada、Quebecの動向


宮田徹也

Canadaの美術団体GRAVEにアーティストの丸山常生と共に招かれ、アーティスト・イン・レジデンスを行った(2010年9月15日~10月5日)。Canadaには政府等からの支援金で現代アートの発展を支援するアーティスト・ラン・センター(非営利運営ギャラリースペース)が現在、140ほどある。レジデンス事業も早くから実施しており、いわば世界最先端の地域といえる。
GRAVEは1985年、ケベックの代表的アーティスト6人によって設立、Quebec州との繋がりが深い。施設はMontreal市とQuebec市のほぼ中間の、中央QuebecのVictoriavilleにある。三つのギャラリーのうち一つは凡そ92平米、二つは60平米、四つのアトリエ、二組のアーティストが滞在できる住居空間がある。近隣には教会、スーパー、商店街、歴史的建造物が並ぶ。移動の手段は車のみ、静閑で作品を制作するのに相応しい場所である。
丸山は1956年Tokyo生まれ、東京芸術大学在籍中から既に現在のスタイルであるinstallationとactionを始めている。国内外で活動し、GRAVEの現ジェネラル・ディレクターJocelyn Fisetとは20年前に出会っていた。活動初期は【都市におけるフィールドワーク】をコンセプトに、2000年以降は静的な状態と動的な状況が共存する作品設置と行為を融合した造語【インスタラクション(Installaction)】をモチーフに、近年は「視る」=「移動する」、「行為する」ことによって生まれる新たな視座を固定しない【Simultaneous Positioning】を作品名とする。
丸山は今回、Canadaのリーガルサイズの白紙一枚、現地の腐葉土と灰、同じく廃材の椅子と地球儀、Japanから持ち込んだ黒く細い紐と横3×幅3×高7cmのスチール製のミニ椅子を軸に、撮影用のアクション、実際のアクションを織り交ぜ、インスタレーションを何度も組み替えた。総合的な作品タイトルは《Simultaneous Positioning》であり、組み替えは《phase-0~4》で記される。インスタラクションを充分に発揮した作品の特徴は、可視化という芸術の根底を探っている。アクションとインスタレーションが逆転し静止と動作が混在する作品は、今後Japanでも多く眼にすることができるであろう。
丸山を招聘したJocelyn Fiset(1962年Jonquière生まれ)は自らの作品を《The Nomad’s Mark》と銘打ち、カラフルなビニールテープをその場で貼り付けて形体を発生させる。この素材を用いればNomad=遊牧民になれて、世界の何処でも如何なる大きさの作品でも簡単に発表することができるという。簡素であってもグローバル主義に楔を打ち込む強さを読取れる。


 Jocelynは私たちに、GRAVE以外にも多くの場所と人を紹介した。Canadaの作家の特性は、人の目を気にせずに自分がやりたいことを明確に主張することにある。Montrealには現代美術館、ジャズフェスティバル、国際映画祭、ダンス会場と文化が犇き合っている。現在38団体の画廊・ダンス学校が一戸のビルに入居しているLES GALERIES D'ART CONTEMPORAIN DU BELGOという集合画廊もその一つだ。ここでは海外の動向や時代性を全く気にしない作品が多く見られた。このような作品は、総合、絵画、彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、批評といった六種類の専門雑誌で紹介される。各雑誌とも5,000部発行しているというのだから、政府の支援があるとはいえ民間の興味の深さに感銘を受ける。あるアーティストが「Japanの映画、《おくりびと》についてどう思うか」と食い下がり、私は「前衛ものしか見ていない」と答えざるを得なかったほど、外国の文化に対する関心も広い。


 David Moore(1943年Dublin生まれ)は平面からはじめて現在は彫刻、インスタレーションを制作している。1964年にケベックに移住し、Montrealの様々な大学で教鞭を取る。数多くの賞を取り、各地の美術館に作品が所蔵される、謂わばQuebecの代表的な作家である。スタジオはJocelynが住むMont-Saint-Hilaireから車で30分程の農地にある。サイロを改築し、一階には画廊、制作場所、平面の収蔵庫が、二階は立体の収蔵庫となっている。その作品群は圧巻で、立体でありながらも地と図が存在し、本体である図よりもそれを取り巻く空間である地が果てしなく広がる作品だ。Davidは「幾ら作品を造っても、湧いてくるイメージに追いつかない」と語り、複数の作品の同時制作を続けていく。


 Dominique Laquerre(1959年Victoriaville生まれ)は、MontrealよりCity of New York側にあるChestervilleという広大な森に囲まれた街に住んでいる。Dominiqueはこの森の中でアート・フェスティバルを開催した。私が訪れた時には展示期間が終了していたが、Dominiqueの作品《Ligne de vie》(ライフライン)は残されている。Dominiqueによると森には先住民が備えた柵とその後の移民者がやり直した柵があり、この境界線が住む者同士のあり方、人間と自然の関係において重要な記号になっていると言う。この森の樹木に、自らの記憶が刻印されている写真を埋め込む。写真は樹木の成長と衰退によって、長い年月をかけて取り込まれていく。そのようなコンセプトを《ライフライン》は持つ。生活と人生と外に流れる時間、この別離したものが一体化した作品である。


 Canadaで唯一のフランス語圏であるQuebecの人々は、自らのルーツに対するプライドが高い。しかしそれは単なるナショナルな意味ではない。Canadaから独立させる原理主義から、温和なナショナリストと8種類程の主張が旗によって示される。それらがQuebec内でバランスを取って共存している。このような肌理細やかな発想から、自由な文化が育まれているのではないかと感じたのだった。