最終日が近い土曜日とあって、会場は結構混んできた。スライド上映と学芸員のレクチャーのイベントと重なって、“どうぞ御参加下さい”との掛け声もあって、僕は展示場でのギャラリートークにも参加した。
見学者からは「時代を感じさせるわ。」とか、「これ木版画なんですか?」など印象が語られていた。学芸員の説明にも日本アンデパンダン展への小野忠重の参加のこと、日本美術会のことなど若干触れられていた。僕も新日本出版社の本などで小野忠重作品を少々知っていたから “時代と共に生き、時代を活写した”その作品群を今回まとまって時系列で見られて満足した次第。
ケーテ・コルヴィッツや中国木刻運動など庶民派・生活に根ざした観点で捉える一方、モノクロームの群像表現から次第に、黒を基調としつつもカラーの1点もの(モノタイプ)へと進化し、三人の女性を描いた『風』(1975年)、アーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』へのオマージュを感じさせる、海辺にたたずむ一人の老人に焦点を絞り込んだ『老人の海』など内面表現へと関心が移っていたようにも感じられた。
映画で言うならば、戦後のイタリアのネオ・リアリズモのような“カメラ・アイ”から戦前のドイツの表現主義、『カリガリ博士』etc、へと回帰して個人の“内面性”“主観主義”へと立ち還ったようにも僕には思えたのだがいかがでしょか?学芸員のトークの中で、鳥などの動物が画面に横断したり縦断したりするは“少々うるさく思える”とあった。確かに画面を壊しかねない“闖入者”なのだが、そういう影のような存在がいわゆるリアリズム絵画の枠を超えさせた小野忠重氏の絵心(魂・アニマ)であったように思えるのだが――。
(まつばやしよしまさ・美術家)