日頃愛知の美術の動きについて全体的に関わっているわけではなく、その一断面についての報告にとどまらざるを得ないのであるが。
日本美術会の愛知の会員は組織的にその主旨にそって活動しているわけではない。地域連絡会としての活動はあるが、2年に一度、会員展を行っている程度で、愛知の美術界でその存在を広く知られるということにはなっていない。地方の美術運動という観点からすれば、「美術集団8月」の方が重さを持っていると言えるのではないか。「美術集団8月」は「グループ8月」という名で1961年に、今は亡き坂野耿一、富田弘一、はらたはじむ、篠田昭二さんなどによって創立されて48年の歴史を持っている。(創立当時の記録を見るとほとんど「日本美術会」の愛知版といった意気を感じる)
日本美術会の愛知の会員は17名いるが、その内11名が「美術集団8月」に参加し、日本美術会の活動の拠点として、この集団を支え発展させてきているし、新しく日本美術会の会員になった人々はほとんどここから育ってきている。「美術集団8月」は現在会員50数名、年2回の展覧会、毎月2回デッサン会、月1回研究会をおこなっている。最近の研究会では永井潔さんの「芸術論」をテキストにした。展覧会では、かって「グループ8月」と言えば、「ああ坂野耿一さん、富田弘一さん、はらたはじむさんの-」という返事が返ってくるほどだったから、その人たちが亡き今、美術集団らしさがなくなっているといった批判も聞こえてくる。反面、流派にとらわれず自由にのびのびしていて、この展覧会に来てホッとした、という声もある。日本美術会の会員の作品は、「社会的」なテーマの作品が多く描かれている。東京まで「アンデパンダン展」を観に出掛けられない人にとって、ここは「アンデパンダン展」の一端に触れられる場となっている。さらに愛知では「平和美術展」が名古屋、瀬戸、西三河、尾張南部などで10ヶ所開催されている。これには、日本美術会、美術集団8月の会員が中心的な働き手として積極的に参加している。
愛知県は、「あいちトリエンナーレ2010」を開催するとして、準備を進めている。愛知県美術館の話によれば、県美術館の利用者が年々減少しており(昨年80万人から50万人に)美術の活性化のために何らかの取り組みを求められている。そこで、三年毎の定期的な開催がされる国際芸術祭(トリエンナーレ)を「都市の祝祭」というテーマのもと開催し、現代美術作品の展示や舞台芸術の公演によって、世界の最先端の動向を紹介するとともに、ワクワクするような高揚感のある雰囲気を演出、愛知、名古屋の文化のシンボルとして皆様に親しまれるようになることを目指しています、という。期間は2010年8月21日から10月31日まで。ところが準備や後片付け含めると3ヶ月間会場となる愛知芸術センターが、一般の人(地元の美術団体展)が使用できなくなるという問題が発生した。会場使用申し込みをご遠慮ください、というものに抗議が殺到、地元の美術活動を困難にしてなにがトリエンナーレだ、との声がわきおこった。これには美術館側も苦慮。結局、会期や使用する部屋を縮小して、定例の団体展は何とか従来の半分ほどの規模で開催できる、ということに落ちついた。
日本美術会愛知地域連絡会は2年に一度会員展を計画してきたが、2010年はこの余波を受けて会場を確保が出来なかった。
愛知文化団体連絡会議には「美術集団8月」が幹事団体として参加、活動しているが、名古屋市では、催しに対する名古屋市の後援名義を、憲法9条、反核という内容を理由に不承認という問題が発生し、愛知文化団体連絡会議では言論統制につながる動きとして重視し撤回を求める運動を始めている。公開質問状を出したが、不誠実な回答しかかえらず息の長い運動が必要と考えて取り組みを強めている。
今後の課題。最も切実な問題は例にもれず高齢化と世代交代の問題である。正直言って例えば、さきごろ大阪で開催された「堂島リバービエンナーレ2009」で感じたが、現在の若い芸術家たちの作品は、私の作ろうとしてきた作品とはあまりに乖離が大きすぎる。今の愛知の私たちの美術運動に若い作家が参加してくるだろうか?悩みは深刻である。
(しおざわ てつや・画家 日本美術会会員)
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